ブレイド・マスター(繡春刀)3/3

 周妙彤が沈んだ顔で座っている。部屋に上ってきた沈煉は、すぐに妓楼から彼女を連れ出そうとするが、妙彤は「厳様を助けてくれた?」と尋ねて、答えを得るまでは動きそうにない。
 沈煉は厳峻斌の最後を語った、頼まれて自分が殺したのだと。
 絶望した妙彤は、これまで押し隠してきた気持ちをさらけ出して泣いた。
 十二歳の頃、錦衣衛が私を妓楼に入れた。大嫌いな飛魚服、腰に下げた繡春刀。あの日、あなたを見た。父を連行した。憎むべき相手よ。

 その時、窓から矢が撃ち込まれた。
 沈煉は周妙彤を守り、閹党を討ちながら逃げようとするが、すっかり気力をなくして隠れようとする気持ちすらない妙彤は、たいへんなお荷物だった。
 

 検視が終わる。医師は宰相 韓曠に「この骨は若すぎます」と報告した。
 

 盧剣星と魏廷の争いは、魏廷が劣勢となっていた。そこへ、張英が配下を連れて現れ、「盧剣星、まだ抵抗するか」と喚いた。魏廷は勢いづいたが、次の瞬間、槍が彼女を貫いた。

 配下らは次に剣星を取り巻いたが、もともと自首しようとした身、抗いはしなかった。
 

 やっと閹党を討ち周妙彤のもとに戻ると、彼女の肩に矢が刺さっていた。
 気遣う沈煉に、妙彤は靳一川が医者の家に行ったことを告げ、行くよう沈煉に促した。
 そこへ次の敵が現れた。趙靖忠であった。
 激しく争い、沈煉が下がって距離を置いたとき、靖忠は突如刃を妙彤に向けた。彼女を庇って、沈煉は肩を刺し抜かれる。絶体絶命と思われたが、どこから湧いた力か沈煉は靖忠を圧倒し、階段から石の床に突き落とした。
 沈煉は妙彤を抱えて妓楼を後にした。
 


 医者宅では、靳一川が丁修と戦っていた。技では弟弟子が勝るようであるが、労咳持ちで息が続かぬため体力では劣るようだった。一川は咳き込みはじめ、とうとう打ち倒される。
 とどめを刺そうとする兄弟子に、必死に頼む。「あの娘は逃がしてやってくれ」。丁修は手を止めて屈み、一川の顔を覗きこんだ。「医者は殺したが、娘には手を出していない」と言った。そして尋ねる「もしそうなら嬉しいか」。
 一川の顔をとっくりと観察した後、丁修は立ち上がってとどめを刺そうと再度狙いをつけた。「お別れだ」。
 しかし、手は動かない。意味もなく空を見上げて彼は呟いた。「だが、お前を殺したらこれからの人生、俺は独りぼっちだ」。彼は茫然としているようだった。
 そのとき、瓦の鳴る音がして、ふたりは塀の上から銃身がこちらを狙っていることに気づく。一川はとっさに丁修を突き飛ばした。
 

 武器を奪われ縄を討たれた盧剣星が、皇帝の前に跪かされる。「魏忠賢は今どこにいる」。「黒幕は誰だ」。下問に満足な答えは返らなかった。
 盧剣星が下がらされた後、韓曠は奏じた。「陛下、私共が残党の名を吐かせてみせます」。
 しかし皇帝はそれを許さなかった。「すでに数百人殺した。これ以上一味の名を吐かせるな。処刑せよ」。

 趙靖忠は義父を殺して失踪した。

 盧剣星は閹党の残党として処刑された。
 


 沈煉と周妙彤が医者宅に着くと、中庭に靳一川の遺体が転がっていた。
 「俺のせいだ。俺が間違っていた」。沈煉は号泣する。
 妙彤が目を上げると、膝を抱えて座った張嫣が涙を目に浮かべながらうっすらと微笑んでいた。恐怖と悲嘆に心が壊れたように見える。
 

 二か月後、関外(皇帝の支配が及ばない)の地。
 都とは全く景色の違う林の中で、趙靖忠は銃を構え追ってくる沈煉に狙いをつけた。しかし、木の上から人影が刀をかざして降ってきて、銃を叩き切った。沈煉である。では、あちらの沈煉はと見直せば、それは丁修であった。
 「沈煉、活路を与えたのに、なぜつきまとう」。「貴様を殺さねば死人も同じだ」。
 ここで、靖忠はひとつの種明かしをした。「陛下は魏忠賢を連れ帰れと命じた。だが私が殺せと伝えた」。「どの道、俺たちを消す気だったのか」。

 この時、丘の向こうから騎馬隊が近づいてきた。よく通る声が誰何する、「李将軍の友人か」。趙靖忠は己の帽子を落として応えた、「私が趙靖忠だ」。金国の言葉であった。髪まで金国風に剃られているのを見て、沈煉も丁修もその厚顔さに呆気にとられる。靖忠は、殺した義父 魏忠賢のつてで金国に迎え入れられようとしているのだ。
 続けて、靖忠は「こいつらは敵だ」と叫んだ。
 沈煉と丁修が金国の言葉を解するのか筆者には分からなかった。
 意味を知ってのことかも知れないし、騎馬隊に不穏な空気を感じたのかもしれない。どちらであれ、丁修は沈煉と示しあうこともなく、即座に騎馬隊に向かって走り出した。
 沈煉は靖忠と対峙した。

 金国の兵は丁修に突撃して通り過ぎ、馬を返してはまた突撃する。丁修は一騎、また一騎と倒していくが、敵の馬術に翻弄され傷つき、もはや体力勝負と思われた。

 趙靖忠は錦衣衛ごときと沈煉をののしったが、それが壮語とならないだけの武術を修めていて、沈煉は圧倒され、傷を負っていくばかりだった。腹を刺され、刀を飛ばされた。
 沈煉は問うた、「なぜ俺たちを選んだ」。靖忠は面白くもなさそうに淡々と答えた、「虫けらだからだ。いつでも簡単に踏み殺せる」。沈煉は痛烈に嗤笑する。「貴様は失脚した。虫けらのせいで」。
 冷静さを失った靖忠は刃を押し込み、沈煉は押されるまま後退したように見せかけて刀の在り処まで移動した。刀をつかみ、靖忠の胸を刺した。肩を抱き寄せるようにして、さらに深く深く突き通す。華麗さのまったくない勝利だった。

 へたりこむ沈煉がようやく見渡す余裕を持てたとき、金国の兵を殲滅した丁修が同様にへたりこんでいて、ちょうどこちらに顔を向けた。
 


 ふたりは馬を並べて歩ませていた。丁修が口を開く。「蘇州の斉家街を訪ねろ。周妙彤と医者の娘がそこに住んでいる」。「ありがとう」。「礼は無用だ。俺も趙靖忠を殺すつもりだった」。
 医者宅から閹党を追って出ていた丁修が戻り、沈煉から周妙彤と張嫣を託されて安全な場所 蘇州まで送り届けた。沈煉はすぐさま趙靖忠を追跡して、丁修が蘇州から追いついてきた。筆者の推測だが、そのような経緯ではなかろうか。
 別れの言葉もなく丁修は蘇州とは別方向へ馬を進ませ、沈煉はその自由な後姿を見送ったのだった。
 


 エピローグはいただけなかったので省略。
 ひたすら張震氏(張震)と李東学氏(靳一川)の身ごなしに目を瞠る映画だった。