修羅 黒衣の反逆(繍春刀Ⅱ 修羅戦場)2/3

本編(つづき)

 沈煉が公文書庫を訪ねると東廠の手の者であふれていて、魏忠賢から造船文書を全て調べよと命が下っているとのこと。書庫に入ろうとすると止められ、もめるところへ陸文昭と東廠の高官 鄭掌班が到着。沈煉は追い払われた。
 掌班の言葉により、沈煉は造船文書を調べる目的が皇帝の船の転覆の解明と知る。
 前回、魏忠賢を東廠の長官と記したが、のみならず政治の実権をも握っている模様。そのため、東廠は錦衣衛を下に見て、好きなように使っているということだろう。
 殷澄の不敬のたわごとの内容が、皇帝を軽んじるというよりは魏忠賢を扱き下ろすものであったことを奇妙に思っていたが、そういうことか。
 

 ここで一度だけの端役と思われた夥頭和尚が再登場。
 裴綸から「北斎の絵を集めていると聞いたが、どこにあるのだ」、「誰に送った」と取り調べを受ける。「覚えておりませぬ」と言い逃れようとするが、脅しに耐えられない。
 

 北斎は丁白纓にかくまわれている。白纓は殿下と呼ばれる人物に仕えていた。
 

 沈煉は夜の闇に紛れて公文書庫に忍び入り、担いできた革袋から油を撒いた。しかし、火を点ける直前で思いとどまる。
 沈煉は船の建造に関わった内官監(土木・建築と皇宮調度品の管理を行う組織)の資料棚に向かい、「遊覧船建造記録」の冊子を取ってめくる。遊覧船の検査人は郭真(冒頭の殺人被害者)。また、「内官監名録」には、郭真は内官監の局長とあった。
 外から扉のきしむ音が聞こえる。灯りを消して屋外に出ると鄭掌班がおり、襲ってきた。強い。

 炭が入っているのか火の粉を飛ばす流星錘が格好良い‥‥のだが、そのせいで乱闘が屋内に移った際、油に引火する。
 狼狽もあってか鄭掌班は沈煉に形勢逆転され、敗走した。
 沈煉は哨兵の巡回の時刻の目安に線香を立てていたが、もうすぐ尽きる。外塀の向こうには兵が。すんでのところで沈煉は掌班を彼自身の武器で仕留める。
 応援を求めて叫ぶべきだったが、自尊心の高そうな掌班にはその選択はなかったか。
 

 指定されていたのであろう、沈煉は茶楼に行き、丁白纓と会う。「北斎は」。
 白纓は冷たく「悪いな」と一言。店員は皆一味で、沈煉を囲んで威嚇。
 「郭真の口を封じたな」と沈煉。「あやつが船に細工をした」。こうして沈煉の謎解きが‥‥続かず、あっさりと緊迫した場面は終了。自分が戻らねば建造記録は役所に届けられるとのはったりで、沈煉は解放される。
 

 帰宅すると、猫が屋外でイカ耳。中では裴綸と北斎が卓に向かって座していた。裴綸は北斎が沈煉の妻だと思い込み、疑ってはいなかった。
 この辺りからの北斎は、か弱さとふてぶてしさが交互に現れて、素人が無理に反体制派でがんばっている感がよく出ている。
 裴綸の要件は、郭真の事件の調べの進み具合についてだった。郭真が現場となった店に呼び出され殺されたこと、呼び出しの文が見つかり差出人が北斎とあることなどを語る。「たまさか殺されたのではなく、仕組まれたものだったのだ」。
 また、和尚が北斎の絵を沈煉に送ったと言っていると語り、否定するなら「和尚を始末する」と沈煉を脅した。沈煉の答えは「持っておらぬ」であった。
 「和尚はおぬしを友と申したが」裴綸は顔に侮蔑を浮かべ席を立つ。「いとも容易く見捨てるとは」。
 追って「私を追い詰めたいのか」と怒りをぶつけると、「いかにも左様だ」と怒号が返った。「私に友はたった一人しかいなかった。殷澄(不敬のたわごとの錦衣衛)だよ」。


 家探しで部屋が荒れており、何を探したと沈煉は北斎を問い詰めた。「船の建造記録よ」。なおも問い詰め黒幕を吐かせようとしたが、連れ出して水に落とし、命に関わる目に遭わせても北斎は口を割らなかった。
 ただ、問わず語りに己の身の上を話し、「あの方が私を救い誓ってくれた。魏忠賢を抹殺し、閹党を一掃すると」と言った。「あの方」が黒幕であることが察せられた。
 (閹党とは宦官に与する者らを指し、東廠はその一部である。東林党は閹党と敵対していて、東林党は反体制派だが、逆に閹党は体制派と言えるかというとちょっと怪しい。)
 

 その頃、陸文昭は錦衣衛で、横たえられている鄭掌班の口元に耳を寄せていた。
 目覚めることはなかろうと診断された掌班であるが、執念のように何かを呟いており、それを文昭だけが聞き取った。

 公文書庫では焼け残りの文書が調べられていた。通りすがる陸文昭に裴綸が呼びかける。
 裴綸は内密の話として「沈煉が殺しに関わっている」と告げ、八年前の戦いで郭真は沈煉と同じ部隊にいたことを指摘する。そこへ丁白纓ら三人が現れた。文昭をかばって前に出た裴綸だが、後ろから刺される。
 文昭は白纓に命じる。「妹弟子よ、仕留めろ」。

 

 沈煉も八年前を思い出していた。命を救った相手は、陸文昭のほかもうひとり、郭真であったと。「郭真は陸文昭と知り合いだった」。
 水辺にいる沈煉と北斎のもとに、辛うじて逃げた裴綸が流れ着く。

 裴綸が意識を取り戻すと、そこは沈煉の家であった。
 沈煉にどう向かい合うべきか心惑うらしい裴綸。「私も殷澄の友だった」と沈煉が話しかけた。続いて裴綸が傷の手当の感謝を「奥さん」に述べると、沈煉は「絵師の北斎だ」と明かした。
 すると、猫の威嚇の声が聞こえた。


 沈煉は中庭で陸文昭と対峙した。文昭は沈煉を懐柔しようと言葉を尽くす。鄭掌班の件も凌雲鎧の件も握りつぶした。そなたは私の友ゆえ。
 その手には乗らず、沈煉は喝破した。「貴様が郭真に船の細工をさせ、口をふさぎ、書庫を燃やさせた」。
 文昭が門を出ると、塀の上から沈煉に銃弾が降り注いだ。
 ああっ、猫が撃たれたっ。
 門から敵がなだれ込み、沈煉は猫を抱き上げて家に退避。扉に火を放ち、裴綸と北斎を連れて地下から逃亡した。
 ぐったりした猫を撫でてから置いていくのが切ない。